給料の前借りを謳う給料ファクタリングは危険
給料ファクタリングと給料の前借りは一見よく似た行為のように思いがちです。
いずれも給料日より先に現金を手に入れることができます。
給料の前借りと給料ファクタリングの違い
給料の前借りは「今すぐに現金がほしい」「とはいえキャッシングやカードローンを使うわけにはいかない」といった状況の人が会社にお願いして行う行為です。
とはいえ生活苦を会社に知られることは困るという会社員の方がほとんどでしょう。
一方、給料ファクタリングは、会社に知られることなく先に現金が欲しいという人を対象にした現金前渡しサービスです。
集客方法としてはSNSやホームページなどを使って「給料の前借りが可能」「ブラックでもOK」などとアピールしてユーザーを募集する方法がとられています。
最近では「給料ファクタリング」のユーザーが増えており、社会問題となっています。
ファクタリングと給料ファクタリングとの違い
ファクタリングは企業の運転資金調達方法
ファクタリングとは、企業間で行われる債権買取サービスです。
企業が、取引先に持つ売り掛け債権をファクタリング会社に売ることで、現金を手早く受け取ることのできる資金調達方法です。
「売掛債権」は、現金未回収の商品やサービスに生じる代金の請求権です。
本来、商品やサービスを納品した後に、代金を受け取るのが通常の取り引きです。
たとえば、月末締め翌月末払いといった支払い方が一般的です。
通常のこの取り引きでは、債権者が債務者から現金を受け取るまでに一定期間の時間が生じ、中小企業などではそのタイムラグの間の資金繰りが必要になります。
そこで、債権者はファクタリング会社を使って売掛債権を先払いで買ってもらい、手数料を引かれた形で受け取り、つなぎの資金にするわけです。
ファクタリング会社は売掛債権を取引先から直接回収します。
給料ファクタリングは「給料の前借り」ではない
給料ファクタリングは、前出の企業の現金調達手段であるファクタリングを社員の賃金債権に置き換えたものです。
会社員は雇用主から給料を受け取る権利である「賃金債権」を持っています。
この「賃金債権」をあてに給料ファクタリング会社から給料日より先に現金を受け取ることができます。
「給料の前借り」と謳う給料ファクタリング会社もいますが、給料の支払いをする者が給料ファクタリング会社である点で、前借りではないことがわかります。
企業のファクタリングとは違い、給料ファクタリング会社はユーザーから直接現金を回収します。
給料ファクタリングの正体は、給料を担保にした貸金です。
多額の手数料を利用者から受け取り、利益を得ることを目的としています。
貸金・融資である以上、形を変えたヤミ金ということができます。
給料ファクタリングの問題点
給料日前に思わぬ支払いが生じた場合などに給料ファクタリングは簡単便利なサービスと捉えられがちでしょう。
ですが実際は様々な問題点があり、ユーザーの多重債務や自己破産につながることがわかっています。
高額な手数料は事実上の借金
給料ファクタリングの一番の問題点は、給料ファクタリング業者がユーザーに対し、実際上高金利での融資をしているという部分です。
給料ファクタリング業者は国の定める最低限の法定利息を遙かに超える手数料(利息制限法の上限金利15~120%、出資法の上限利息年20%)を利用者に請求します。
この手法が広がった要因として、2020年まで給料ファクタリングが「貸金業」と認められていなかった点にあります。
給料ファクタリング会社は「貸金ではない」と主張し法の抜け穴を見つけてサービスを行っていたわけです。
違法な取り立てに遭う可能性
給料ファクタリングのユーザーは、債権の売却を行ったことを会社に伝えることをしません。
給料ファクタリング業者はそこをついて、支払いが滞った時に「賃金債権を勝手に売ったことを会社にバラす。」などと言って脅しにかかるケースも多発しています。
もちろん、貸金業法の上で違法となる取り立ての手口の一つです。
多重債務、自己破産につながる
給料ファクタリングの利用者には借金があることが多く、債務整理の過去があったりする人も少なくありません。
給料ファクタリングを利用したり、そのため消費者金融から借金したり、と多重債務に陥ることも多くなります。
給料ファクタリングと給料前借りサービスとは違う
「給料ファクタリング」と似た名前ですが「給料前借りサービス」というサービスが現れています。
給料前借りサービスは、サービスを行っている業者によって違いがありますが、労働者の申請に基づき、給料日より先に実際に労働した分の給料を受け取ることのできるサービスです。
給料前借りサービスは、サービスの契約者が提供会社と雇用主である点や、福利厚生の一部として展開されている点、労働者が利用しているかどうかを雇用主が確認できる点で、給料ファクタリングとは全く違います。
給料前借りサービスは、貸金業としては無登録でも、金融庁お墨付きのサービスであるため、違法業者ではありません。
給料ファクタリングはヤミ金
2020年3月24日、東京地方裁判所は給料ファクタリングについて、貸金業法、出資法違反で契約は無効。刑事罰の対象となるという判決を下しました。
要するに、給料ファクタリング業者を違法業者であり、ヤミ金であると認定したのです。
債権譲渡代金を支払うことは「手形の割引」による金銭の授受です。
なので、貸金業法、出資法が定める「貸し付け」に当たります。
貸金業者は、貸金業法、出資法の定めに従わなければなりません。
金利上限は貸付金額に応じて15.0%~20%
利用者の事前返済能力の調査
貸付金額の上限は年収の1/3まで(総量規制)
厳しい取り立ての禁止
これらに反した場合は刑事罰の対象になります。
ファクタリング業者は「貸金業ではなく債権買取行だから」と主張していましたが、東京地方裁判所の判決によりそのいいわけは通らなくなりました。
給料ファクタリング業者への返済義務は必要なし
上述の裁判では、被害者(給料ファクタリング業者利用者)には、これら業者に対して金銭の返済義務はないとの判決を下しました。
この判決にならい、自称ファクタリング業者との取り引きは無効となるたえに、支払いに応じる必要はなくなりました。
しかし彼らはそもそもグレーなサービスであることを知りながら営業しているため、法律や判例に従うとは限りません。
そのまま支払いを放置しているとヤミ金まがいの取り立てが始まります。
まとめ
給料ファクタリング業者はその仕組みをよくわからずに気軽に利用してしまう利用者が少なくありません。ですがほとんどの業者が違法業者です。
利用者の給料という担保をカタに、手数料と自称する高額な利息の支払いを迫ってきます。
「手数料」を通常の貸金業の金利に換算すると、法定金額を大きく超えてしまいます。
繰り返しますが、給料ファクタリングは給料の前借りではありません。
実質的には悪質な貸金業者であり、貸金業法、出資法に違反するヤミ金です。
支払いを放置していると、ヤミ金まがいの取り立てが始まり、最悪あなたの家庭を崩壊させてしまう可能性があります。
つい利用してしまったという方は、一人で抱え込まず、ヤミ金に強い法律家に相談されることをおすすめします。