日名子暁(ルポライター)氏によるヤミ金取立て屋グループに聞いたルポです。ヤミ金利用者が、取り立て屋稼業に鞍替えする・・・闇金取り立て屋の実態に迫ります。
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厳しい闇金の取立て
闇金の取立ての厳しさは、そのつらさを経験した者にしかわからない。
たしかに法律で禁じられている、夜討ち朝駆け、電話攻撃、ファックス攻撃、ビラ貼り、親戚宅への”引きまわし”などを受けたら・・・と想像するだけで、通常の神経の持ち主なら悲鳴を上げてしまう。
だが、取り立てる側にも苦労があるのだ。
なにせ、今の世の中、官も民も借金まみれになっている。
そのなかで、これから紹介する「ヤミ金」の取立て人が担当するのは”表”と”裏”の「街金」から借りまくり、もはや借金でニッチもサッチもいかない、多重債務者と呼ばれる連中ばかり。
「ヤミ金」に言わせれば、通常の手段だと逆さにして鼻血も出ない者達ばかり、である。
その連中から取り立てるのだから、その難しさも理解できる。
加えて「ヤミ金」側にすれば、借金をすべてチャラにできる自己破産という、とんでもない方法が世にはびこっていて油断はできない。
現在、自己破産の申し立て件数は年間約16万人と推計される。
もっとも自己破産申し立てをしても、すべてが認められるわけではなく、認められても、借金のすべてが免責されるわけでもない。
だが、自己破産の申し立てをし、そこに弁護士が介入すれば、「闇金」などもはや取立てをすることはできない。
逆に、借金の整理にさも弁護士が介入したように見せるという「整理屋」の手口もある。
この際、名前を貸した弁護士は”非弁提携”と呼ばれる弁護士法違反に問われるが、現在、この”非弁提携”が急増中なのだ。
借金取立ての攻防戦
”非弁提携”が増えているのも、多重債務者が世の中に溢れているからである。
彼らをめぐる借金取立ての攻防戦が激化しているのだ。
そこで、法定金利をはるかに超える金利で貸し付けているという自分の立場を忘れ、取立て側からこんな愚痴も出る。
「借りたカネを返すのが常識だ。その常識を知らないヤツが多すぎる。金、返せよ・・・本当に。一昔前なら”こらあ、俺を誰だと思ってるんだ!ぶち殺すぞ、こらあ!”と言えばビビって金を返しに来たもんだ。ところが、今はどうだ。びびりながらサツに行く、奴らがサツに行けば、サツは喜んで手錠を持ってかけつける。
暴対法だよ、暴対法。あれのおかげで取立ての効率はさっぱりだ。いや、俺はヤクザじゃないよ。だが、こじれた取り立てはヤクザに限る。それで、ヤクザに頼んでいた。ふつう、ヤクザに取立てを依頼すると、半分持っていかれるが、俺のところは、しじゅう頼んでいるので特別に二割が彼らの取り分となっていた。その代わり、盆と暮れには、別に包んだがね。このヤクザの取り立ても、暴対法以降は難しくなった。かといって、自力で取り立てるには、人出が足りない。
なにせ、俺のところから借りていく連中は筋が悪く、住居、仕事も転々としている連中ばかりだ。それでも、なかに役人などの筋のいい借り手もいるので、俺のところもお手上げにならずになんとか踏みとどまってはいるがね。それでも、7~8年前に比べれば、利益は三分の二に減っている。パクられるのが覚悟のこの商売で三分の二減は、死ね、というのに等しい。利益額?そうだな、年間に1,000万円あるかないかだよ。」
これは、御徒町駅周辺で二十年近く「ヤミ金」を営んでいる、五十代半ばの山田忠夫さん(仮名)の弁だ。
この山田さんが「この”ヤミ金”受難の時代に着々と成果を上げているところがある。あんた、かぎまわり屋だろう、調べてみろよ。」
と教えてくれた「ヤミ金」組織がある。
ヤミ金チェーン「世田谷商事」
仮に、その名前を「世田谷商事」としよう。
なぜ、世田谷かというと、グループの本拠が、神田、御徒町、新宿、池袋といった、いわば「ヤミ金」の密集地帯ではなく、世田谷区にあるからだ。
およそ「ヤミ金」の客が来る確率の低い世田谷に、どうして本拠があるのだろうか。
ともかく、山田さんに教えられた「世田谷商事」に取材申込みの電話をすると、
「取材?あんた、なんかカン違いしているんじゃないの。うちは、金融業だよ。」
とあっさり拒否された。
そこで後日、手を変えて、客を装い融資申込みの電話をした。すると、
「いくらあるんだよ、ほかの借金は? ない? こっちは忙しいんだ。アコムでも行けや。金利とかの条件を教えてくれ? なんで、教えなければならない。ケンカ売ってるのか、おまえ!」
と取りつくしまもない。
正面突破は難しいので、方針を変え、この「世田谷商事」を知っている者はいないかとツテをたどった。
餅は餅屋である。新宿の「ヤミ金」業者の中に、「世田谷商事」を知っている者がいた。
「あの会社の社長は、浦島太郎というんだ。もちろん、そんなとぼけた名前が本名であるわけがない。十数年前、この浦島も新宿で金融業をやっていたが、大儲けして世田谷に引っ込んだ。もう新宿で目立つ商売をやりたくないということだった。とはいえ、商売そのものをやめたわけじゃない。世田谷に本拠を置いて、若い者に事務所を構えさせたというわけだ。
”ヤミ金”のチェーン店だよ。詳しいやり方は知らないが、うらやましいかぎりだ。教えてもらいたいよ、商売のやり方を・・・。ちょっと待ってよ、三ヶ月ほど前に浦島グループで働いている男に会ったぞ、調べてみるわ。
ということで、時間はかかったが、浦島グループの一員だという三十代後半の男に会うことができた。
浦島太郎の配下だから平目さんとでも呼ぶことにしよう。
彼の話を聞くにつれ、次第に浦島グループの手口がわかってきた。
それはさしずめ、”取り立て産業株式会社”とでも呼ぶべき、貸金回収のプロの集団だったのである。
といっても、浦島グループはヤクザ組織でもなければ、その系列下にあるわけでもない。
グループに属する個人が、ヤクザ組織とつながりがあるかどうかまではわからないが。
平目さんの話を紹介していこう。
まず、元金の回収を心がけろ
彼は、父親のあとを継いだ町工場の二代目経営者だったが、バブル後のお定まりの経営不振で工場を潰した。
なにやかやで負債総額は8,000万円を超えたが、家、工場、設備などを売却し、それこそ無一文になって、とりあえず負債は返却した。
しかし、裸一貫では、再起のしようがない。
どこかから融資を受けなければならない。
途中経過は省略するが、金策の果てに金策の果てにたどりついたのが「世田谷商事」というわけである。
正確にいえば、「世田谷商事」本体ではなく、浦島グループの一員である上野に事務所を構える「ヤミ金」だ。
そこで、平目さんは、とりあえず1,000万円の融資を受けた。
利息は”トイチ”である。
いっさい担保のない彼は、この条件を呑むしかない。
利息天引きで借りた900万円を元手に、友人と畑違いの居酒屋を共同経営したが、見事に失敗。
借金だけが残った。
すでに家、財産のない平目さんには、この借金を返すあてなどない。
しかも”トイチ”の利息である。
1,000万円を借りたはずなのに、この時点で、借金は一億円を軽く超えていた。
当然、親戚、友人、知人宅にまで連れ回される取立てが開始された。
だが、平目さんは、ないものはないと居直ったのである。
ただし、天引きされた利息を引いた900万円の元金に対しては、法定金利分は払うし、もちろん、元金も返すと言ったのだ。
しかし、そうは言ったものの、この”正論”が「ヤミ金」に通じるとは、平目さんも思わなかった。
世間一般のイメージとして、「ヤミ金」は、極端に言えば、返せない客から「目ん玉一個」「腎臓の片方」ぐらいは取っていくものである。
彼もそう思っていたし、そうなれば、そうなったときに考えればいい、と内心はビクつきながら、覚悟を決めていた。
ところが、本当に彼に返す金がないとわかると、彼が借りた上野の「闇金」の社長と思しき男は、あっさりと「そうか。」と言ったのである。
ただし、条件が付いた。
その条件が「うちのボスに会え」ということだったのである。
そのボスが、前出の浦島太郎だ。
浦島と会って平目さんは、こう言われたという。
「まず、金を返す気持ちはあるんだな、と確認され、返すには仕事を探して働かねばならないだろう、と念を押された。で、改めて利息込みの借金の額である一億円強を示され、これをどうやって返す、と質問された。私は法定金利を超す利息については認めない、と言った。彼は黙った聞いていたが、低い声で、生命はいらないということかと問い返してきた。
迫力、ありましたよ。私の顔色は蒼白になっていたと思うけど、それに対しては何も言い返せなかった。すると、声をふつうのトーンに戻して、あんた働く気はありそうだな。だったら死んだ気で働くか、と。うなずくしかありませんよ。それで、今の仕事が持ち出された・・・。」
今の仕事とは、金融業のことである。
つまり、浦島が持ち出した話は、取り立てを勘弁してやる代わりに、取り立てる側に回れ、ということだ。
もちろん、条件が付いた。
本来なら利息込みで一億円を超える借金を3,000万円に棒引きしたうえに、開業資金としてとりあえず500万円を融資する、というもの。
この500万円が、金融業の開業資金である。
しかし、平目さんはまったくの素人。
だが浦島は、彼が金を借りたグループ内の上野の金融業者のところで三ヶ月間、見習いをすれば、金融業のノウハウを身につけることができると説明し、彼は上野での三ヶ月間の研修を経て独立したのである。
彼は浦島太郎から、こう教えられている。
「浦島さんの言ったことでもっとも記憶に残っているのは、この商売、取り立てが生命だということ。大手の金融業なら、客のデータを見て、危ないと思えば融資を断るが、俺たち町の金融業は、大手を含めたほかの金融業が危ないと断る客に貸すのが商売。そこで、まず元金の回収を心がけろ、と。
これはどういうことかというと、仮に50万円を貸すとしましょう。
”トイチ”の利息なら、まず5万円を天引きにする。
そして、十日過ぎるとまた一割という計算で、利息がきちんと入ってくるとすれば、四回分の利息を回収したところで、元金の50万円は取り戻せる。
それから先が、俺たちの儲けになるという意味です。
つまり、50万円を貸す客には、十日ごとに5万円の収入があるかどうかを見極めて判断する。
今の世の中、いかに不況といえども十日で5万円、つまり一日5,000円を得るのは、病人でもないかぎり、そう難しいことじゃないでしょう。
稼ぎがないなら、どこかで借りさせればいい、貸付額が100万円だろうが1,000万円だろうが、理屈は同じですが、額が上がるにつれ、当然ながらその客がふつうに稼いでいても得られない金額になる。
となると、本人が稼げない分を、ほかでカバーできるかどうかを判断しなければならない。
それはわかりやすく言うと、不動産を含む財産となりますが、そんな財産のある客が俺たちのところに来るわけがない。
そこで、兄弟、親戚、友人に、客に代わって借金を返せるのがいるかどうか。
あるいは、今は終了しているが、一年前まで存在した中小企業融資特別枠のような公的融資を受けられる会社を、形だけでもいいから持っているかどうかなどを検討する。
浦島さんはこういう説明をして、上野の店で見習いをする間に、自分が50万円から100万円くらいの小口に向いてるのか、あるいはそれ以上の大口がいいかを判断しろ、と言いました。」
大口で勝負したい
上野の金融業での見習いを経て、平目さんが選んだのは、小口融資だった。
彼は、開業資金と合わせて、浦島グループから3,500万円の借金を背負っている。
さらに、その借金には利息が付くが、これは、さしずめ”社員割引”で、年に10%と””格安”である。
しかし、それでも年間350万円の利息だ。
利息に加えて、元金を返そうと考えると、ため息がでる。
その利息と自分の性格も考えて、彼は小口を選んだ。
場所も、小口の客が集まりやすい都内北区。
ここなら赤羽などの小さなフーゾク業の多いところがあるうえ、荒川を渡って埼玉県からもフーゾク業の女性がやってくる、との予想であった。
彼の計算は当たり、二年前に開業したが、今では社員を二名もかかえるほどの盛業ぶりだ。
浦島グループからの借金の利息払いは当然として、元金の返済も順調に進んでいる。
「いや、安心はできません。フーゾクの姉ちゃんは、気分ひとつで店も住居も替わるし、突然、行方不明になることも多い。彼女たちはふつうの人に比べれば高収入を得てますが、始終、居場所をマークしなければならないですしね。苦労の代償として、”トサン”の利息は取っていますが・・・。
でも、この商売も慣れてくると、大口融資をやりたくなってくる。ふつうの金融業なら怖がってやらないフーゾク業の経営者に対して、大口で勝負したいという気が起きましてね。その場合、最低でも1,000万円以上の融資になるので、手持ちの資金が足りないから、浦島さんのところから回してもらうことになる。もちろん、金利付きです。金利はヤクザ金融と同じで”ツキイチ”ですが・・・。
この前、電話で相談したら、同じグループ内にフーゾク経営者専門の”ヤミ金”もあると言ってました。この”ヤミ金”の経営者も私と同じで、浦島さんのところから借金をし、取り立てを受けている最中に”ヤミ金”を勧められたらしいんです。取り立てている相手を自分のところにスカウトするのは、浦島さんのオリジナルですね。」
彼が把握しているだけで、浦島グループには本拠の「世田谷商事」以外にも、新宿、神田、小岩、五反田、上野などに十三の「ヤミ金」があるほか、数はわからないが、千葉、神奈川、埼玉といった関東近県にもグループに属する「ヤミ金」があるという。
しかも、平目さんが町工場の経営者出身なら、フーゾク業の経営者上がり、商店経営の経験者など、前歴もさまざまだ。
いずれも、浦島グループの「ヤミ金」から金を借り、それが返せずに取り立てにあった経験も共通だという。
取り立てとは執念です
今やすっかり目つきも鋭い「ヤミ金」経営者然としている平目さんが、浦島グループを、かく分析してみせた。
「私もこの商売に入って、取り立てを経験しましたし、その前には取り立てられることも体験しています。その二つの経験から、取り立てには一般論が通用しないことがわかりました。ケースバイケースでやるしかないのですが、まず、取り立てには人手が必要なこと。かといって自分のところで、常に取り立て要因をかかえていれば経費倒れしてしまう。
つまり極論すれば、経営者が自分で取り立てられるぐらいの人数に金を貸す。ダメなら誰かに依頼するか、ネットワークをつくる。浦島グループには、このネットワークがある。さらに、取り立ての際の脅し文句は、しょせん脅し文句でしかない、極端なことを言えば、返さないからといって殺してしまったら、それで自分の人生を棒に振ってしまう。こんなバカなことはありませんよ。
じゃあ、どうすればいいか・・・。これが浦島さんの真骨頂ですよ。人を見て、取り立てる側に回らせる。そうすれば、この商売につきものの人手不足も補えるし、もちろん、貸金も回収できる。そのうえグループ員にして使える。私のケースがその典型ですが。いやあ、浦島さんはすごいとしかいいようがありませんよ。」
とまあ、手放しの絶賛なのだが、浦島グループがいかに新手の”取り立て産業株式会社”だとはいえ、貸しが込んだ相手全員が、平目さんのように再起する気力のあるタイプではない。
最初から返す気がない借り手もいれば、途中で行方不明になる、あるいは自己破産してしまう者もいる。
そういう相手に対してどう取り立てるのか。
平目さんはこう答える。
「私の経験から言うと、取り立てとは執念なんですよ。」
たとえば、相手が自己破産したとしましょうか。
そうなれば、法の上では手を出せない。
でも、私は忘れていませんよと、根気よく手紙を書き続けることはできる。
これは嫌がらせじゃないですよ。
借りた金を返すのは、世の中のルールでしょう。
それを忘れてもらっては困りますからね。
行方不明も同じです。
相手がフーゾク嬢であっても、誰か友達はいます。
その友達を探し出し、連絡を取り続ける。
そうしていれば、そのうち、行方がわかりますよ。
これ以上は、ケースバイケースとしか言いようがありませんが、知恵を働かせれば必ず、何かいい手を思いつくものですよ。
とにもかくにも執念、執念。
そのうち、相手もうんざりしてきて、どうにでもしてよ、となる。
その時点で、相手の生活環境を見て、たとえ月に1万円でも取り立てる方法を考えればいい。
その点、浦島さんは、見事ですよ。
私も、いずれ浦島さんのような、プロ中のプロになりたい。
彼は、今取り立てに苦しんでいる同業者のコンサルタント業も始めています。
もちろん、有料ですよ。
世の中広しといえども、取り立て人の上前をはねるのは彼だけでしょうね。」
取り立てには、およそミスマッチと思える執念、根気、勤勉という言葉。
それが不思議と似合ってしまう、この「取り立て産業株式会社」である。
同じ金融業者でありながら、不良債権処理に甘えて、苦しい苦しいと悲鳴ばかりあげている銀行に、この取り立ての人達の姿勢を見習わせたいものである。
死ぬ気で行けと・・・。